用言の残り2つの品詞はまとめて解説します。
なぜかというと、そもそもこの2つの品詞の性格がほとんど同じだからです。
日本語以外の言語には、そもそも形容動詞なんて品詞が存在しないと思います。
外国人に日本語を教えた経験もありますが、外国人用の日本語学習教本にも「形容詞には2つのタイプがあり、一つは言い切りの形が「い」で、もう一つは言い切りの形が「だ」だ」と解説されています。
そう、外国人は「形容動詞」という言葉を教わらないんですよ。代わりに「形容詞の『い』型」と「形容詞の『だ』型」の2種類を教わるのです。
ではなぜ日本語の文法では形容詞と形容動詞を区別するのでしょうか?それは後ほど考えてみることにしましょう。
まず最初に形容詞から解説を始めます。
形容詞を定義づけてみましょう。十品詞分類表を上から順になぞっていきます。
形容詞とは、ものの性質や状態、人の性格などを表し、自立語で活用があり、文節の中で述語になることのできる用言で、「い」で言い切ることばのことをいいます。
ものの性質とは、例えば「壊れやすい」とか「柔らかい」とかいった意味です。
状態とは、「明るい」とか「騒がしい」とかいった意味です。
人の性格は簡単に想像できますね。「優しい」とか「忘れっぽい」とかいった意味です。
定義の残りは十品詞分類表から丸パクリです(笑)
せっかくですから、形容動詞も定義づけしてしまいましょう。品詞の性格は形容詞と同じです。「い」で言い切るところを「だ」で言い切ればよいのです。
では定義を書いてみましょう。
形容動詞とは、ものの性質や状態、人の性格などを表し、自立語で活用があり、文節の中で述語になることのできる用言で、「だ」で言い切ることばのことをいいます。
形容詞の定義づけができれば、形容動詞の定義づけもできてしまいます。
さあ、次は活用の種類と活用形です。
動詞には活用の種類が5つありました。そう、五段活用、上一段活用、下一段活用、カ行変格活用、サ行変格活用の5つでしたね。
活用形は「見よ下亀」で覚えるんでしたね。そう、未然形、連用形、終止形、連体形、仮定形、命令形の6つでした。
では形容詞の場合はどうなるのか?
実は超簡単です。結論からいうと、
形容詞の活用の種類は一つしかない。
活用形は動詞と同じですが、命令形はありません。つまり未然形、連用形、終止形、連体形、仮定形の5つの形があります。
活用の種類が一つしかないのだから丸暗記すればいいや!と思った人は賢い。
多くの学習塾では丸暗記法を使っています。すなわち、
かろ ー かっ ー く ー い ー い ー けれ
を何度も暗唱して覚えてしまう方法です。
これでもかまわないのですが、動詞のときのように語呂合わせで覚えると形容動詞もまとめて覚えられます。メリットが大きいのでご紹介します。
打たない鳴る時は (うたないなるときは)
「う」「た」「ない」「なる」(「まる(。)」)「とき」「は(ば)」を形容詞や形容動詞につけて活用変化させてみる、ということです。
「たのしい」を例にとると、
・たのしい + う ⇒ たのしかろう
・たのしい + た ⇒ たのしかった
・たのしい + ない ⇒ たのしくない
・たのしい + なる ⇒ たのしくなる
・たのしい + 。 ⇒ たのしい。
・たのしい + とき ⇒ たのしいとき
・たのしい + ば ⇒ たのしければ
以上で基本的にすべての活用変化形を表すことができます。
最初の「う」に合わせる形が難所です。ここさえ超えれば形容詞の活用は突破できるでしょう。
終止形は自分で補わなければならないですが、動詞の活用の学習が進めば問題なく理解できるようになります。まずは「打たない鳴る時は」で形容詞の語尾を変化させる練習をしましょう。
また活用形ですが、動詞の場合とちょっと違います。未然形の形が一つしかなく、代わりに連用形の形が3つあります。
以下にまとめてみます。
同様に形容動詞も考えてみましょう。「打たない鳴る時は」に対応させて活用語尾をふってみます。
形容動詞「きれいだ」を例にとると、
・きれいだ + う ⇒ きれいだろう
・きれいだ+ た ⇒ きれいだった
・きれいだ + ない ⇒ きれいでない
・きれいだ + なる ⇒ きれいになる
・きれいだ + 。 ⇒ きれいだ。
・きれいだ + とき ⇒ きれいなとき
・きれいだ + ば ⇒ きれいならば
やはり「う」に合わせる形が思い浮かびにくいですね。
それから、形容詞では「ない」と「なる」に対応する形が同じですが、形容動詞は異なります。気を付けてください、「きれいじゃない」は話し言葉です。「きれいでない」が正しいのです。また「きれいではない」は副助詞「は」がはさまっています。つまり「きれいで」+「は」+「ない」の3語ですので注意してください。
また非常に重要なことですが、動詞と形容詞は終止形と連体形の形が同じなのですが、形容動詞は異なります。ここをしっかり押さえてください。
活用の仕方と活用形を下に示します。再度確認してください。
形容動詞では、終止形と連体形の語尾が異なります。
形容詞と形容動詞はそれ自体多くの論点のある品詞でありません。
まずは以上解説したことをしっかり押さえましょう。
もう一段上をいくなら、補助形容詞(形式形容詞)を習得しましょう。
動詞の学習の際、本来の意味を失って補助的・形式的な意味しか持たない動詞のことを補助動詞・形式動詞ということを学びました。
実は形容詞にも本来の意味を失い補助的・形式的な意味しか持たない形容詞が存在します。これを補助形容詞または形式形容詞といいます。
たとえば「ほしい」という形容詞を考えてみましょう。
「ほしい」を英語に訳せばwantという動詞になりますが、日本語では形容詞になります。動詞で表すとすれば「欲する」とすれば良いのですが、実生活ではほとんど用いられませんね。形容詞「ほしい」は「なにかを欲する状態」を表すのでしょう。
さて、この「ほしい」という形容詞ですが、「わたしはこの本が欲しい」という場合は本来の形容詞ですが、「わたしはこの本を買ってほしい」としたらどうですか?
本そのものが欲しいのではなく、買ってほしいのですね。
なので、後者の「ほしい」は本来の意味を失った補助形容詞(形式形容詞)です。
私は例文で敢えて本来の形容詞に漢字を当てて「欲しい」と書き、補助形容詞にはわざと平仮名で「ほしい」と書きました。
補助動詞を学習した際にも解説しましたが、補助形容詞に漢字は当てません。これは大人でもかなり間違って書いています。気を付けましょう。
最後に、なぜ日本語では形容詞と形容動詞を区別することにしたのでしょうか?
私の推測ですが、形容動詞の活用の仕方が形容詞のそれよりも複雑だからと考えられます。すなわち、
・連用形の語尾変化が3種類もある
・終止形と連体形の活用語尾が異なる
特に後者、すなわち「終止形と連体形の活用語尾が異なる」性質を有効に活用して品詞や活用形を判別できることがあるので、その有用性を強調してもし過ぎることはないでしょう。
今回の解説はここまでにします。
演習として、
① 形容詞「長い」と形容動詞「すてきだ」の活用表を作ってみましょう。
② 「ほしい」以外の補助形容詞にはどのようなものがあるか探してみましょう。
をお渡ししておきます。
今回の内容をYoutubeでも動画で解説しています。
こちらもぜひご覧ください。
・形容詞
・形容動詞